組み込み機器のネットワーク化の歴史をたどる

はじめに

 わたしたちは、ほぼ毎日インターネットを主とした、ネットワークを利用しています。現在、組み込みシステムで開発される多くの機器も、ネットワークにつながるものが増えています。この記事では、組み込み機器でのネットワーク化の歴史と技術トレンドの変化についてご紹介をいたします。次の表は過去30年間のトレンドをざっとまとめたものです。これを古い順に解説していきます。

1. シリアルからEthernetへ(1990年代後半から)

 この頃、組み込み機器でのネットワークは、主にRS232CやRS485などのシリアル通信が主流でした。1990年代中頃から、今まで大型コンピューターで使われていたEthernetとTCP/IPによるネットワーク(以降は単にネットワークといいます)が、Windows95の登場によってパーソナルコンピュータ(PC)の世界でも普及がはじまります。

※組み込みシステムの世界ではPC分野の技術が3年~5年遅れて採用される傾向があります。

 この当時、組み込み機器で使用するCPUはルネサスのSuperHが主流でしたが、ネットワーク対応するためには、Ethernetのコントローラが別に必要でした。ソフトウェアも海外製のミドルウェアしかなく、開発も手間がかかるため、現在と比べるとハード、ソフト共にかなりコスト高でした。

2.ARMマイコンの登場(2000年ごろから)

 2000年代になると、組み込み機器でも少しずつネットワーク化が始まります。この頃はRS232Cなどのシリアル通信からEthernetへの置き換えによって、TCP/IPを使ったローカル環境での機器間での通信が主流でした。この頃からインターネットが急激に普及し、ユビキタス・コンピューティングという言葉が登場します。

ユビキタス・コンピューティング
広義では、さまざまな機器をインターネットを介して相互に接続するという意味です。

 IoTの先駆けですね。同じ頃に、さまざまな機器がインターネットに繋がるようになると「IPアドレスが枯渇するのではないか?」という問題が起こり、IPv6というIPv4の拡張仕様が登場します。しかし現在、IPv6は組み込み機器ではルーターなどの一部のネットワーク機器を除いてあまり実装されていないのが現状です。2007年以降になるとSTM32などARMの汎用マイコンが登場します。ARMは今まで携帯電話、ゲームや携帯端末などが主流でしたが、組み込み機器にも参入していきます。マイコンも16bitから32bitマイコンが主流となり、様々な半導体ベンダーがARMアーキテクチャーを使ったCPUをリリースしはじめます。

3.M2MからIoTへ(2010年ごろから)

 2010年代になると、M2M(Machine to Machine)などの言葉が登場し、インターネットを介した機器間の通信が盛んになります。そうして、ネットワーク関連のチップコストが下がっていき、今まで外付けだったEthernetコントローラがマイコンに内蔵されていきます。iPhoneの影響でWi-FiやBluetoothなど無線通信のハードウェアコストが下がり、組み込みシステムへの無線通信の導入が始まります。CPUに目を向けると、当時は様々な半導体ベンダーがARMアーキテクチャーのプロセッサやマイコンをリリースしていましたが、その流れは徐々に後退していき。半導体ベンダーの統合が加速していきます。

4.組み込み機器でのセキュリティ(2015年ごろから)

 その後、M2MはIoT(Internet of Things)へと変化し、さまざまなデバイスがインターネットを介して接続できるようになりました。こうして組み込み機器のネットワーク化が加速していき、掃除機や洗濯機などの白物家電などもスマートフォンやクラウドへ接続できる商品が続々登場します。さまざまなデバイスがつながると、セキュリティが課題になっていきます。組み込み機器は従来、スタンドアロン(非ネットワーク接続)が主流でしたので、セキュリティはあまり気にする必要がありませんでしたが、インターネットなどのパブリックなネットワークに接続することで、攻撃や情報漏洩のリスクが生じ、組み込みシステムでもセキュリティ機能が必要になってきます。この結果、マイコンにもAESなどの暗号アクセラレータが搭載されるようになりました。

5.LPWAとエッジ・コンピューティング(現在)

 前述した通り、今まではIT系(人が使うコンピューターという意味で)のテクノロジーが数年後に組み込み機器へ広がっていく傾向がありましたが、最近はそれだけではなくIoT分野において独自にテクノロジーが進化する傾向がみえます。例えば通信の分野では、LPWA(Low Power Wide Area)やBluetooth MeshといったIoTに特化した通信方式が挙げられます。LPWAは中長距離・低消費電力、の無線通信技術でIoT向けに小さなデータをやり取りします。Bluetooth MeshはBluetoothの規格の一つで、短距離通信のBluetoothを使って、たくさんのデバイスを網目(Mesh)のように配置してバケツリレー方式で距離を伸ばしていく技術です。また、回線を介して様々な処理をクラウド(サーバー)側で行っていたことを、通信を介さずに末端のデバイス側で処理させるエッジ・コンピューティングという技術も増えています。これによってサーバーの負荷や通信のコストを低減し、リアルタイム性も確保することができます。

現在でも主流はTCP/IP

 現在でも、コンピューター・ネットワークで利用されるプロトコルの主流はTCP/IPです。TCP/IPはインターネットを利用するために必要不可欠な基本プロトコルです。PCはもちろん、スマートフォンをはじめ様々な機器で利用されます。TCP/IPをコアに様々なアプリケーションプロトコルが追加されています。例えば、Webブラウザでは主にHTTPを、メールではIMAP、セキュリティはSSL/TLS、IoTではMQTTが利用されます。また、ネットワークの一番下層部(物理層と言われる部分)はEthernet、Wi-Fiなどがあります。

ネットワーク接続によるコストダウンという考え方

 スタンドアロンで動作している機器をネットワークや無線化することで、機器の製品コストを抑える効果があります。例えば画面操作です。従来LCDのタッチパネルを使っていたものをBLEやWi-Fiモジュールを追加し、スマートフォンやタブレットで行う方法です。LCDのタッチパネルはそれなりにコストがかさみます。専用のスマートフォンを用意すればLCDより高価になりますが、利用者のスマートフォンを代用することでLCDが不要になります。また、ストレージもクラウドを利用することで、HDDやSDなど比較的コストの高いストレージが不要になります。ただし、クラウドのランニングコストがかかるので、データ容量や頻度などを検討する必要があります。

機器のネットワーク化で製品価値を向上しませんか

おわりに

 組み込み機器がネットワークへ接続されると、スマートフォンやクラウドへの接続が可能となり、製品価値の大きな向上やコストダウンにつながります。この機会に開発する機器のネットワーク化をご検討してはいかがでしょうか。

 イー・フォースでは創業から15年に渡って、組み込みシステム用のネットワーク関連製品を開発してきました。近年はWi-Fi、Bluetoothなどの無線通信技術やクラウド、スマートフォンのアプリケーション開発にも力を入れています。今後も、トレンドに適したネットワーク関連製品を提供し、お客様の開発をサポートいたします。


\ 機器のネットワーク化を実現する /
イー・フォースのネットワーク関連製品

μNet3
少ないメモリで稼働する
TCP/IPスタック

 μNet3 Seriesはマイコンの内蔵メモリだけで動作する、組込みシステム向けの高速TCP/IPスタックです。幅広いプロトコルをサポートし、上位版のμNet3/Professionalは産業用イーサネットにも対応しております。オプションでIPv6、PPP、SSL、MQTTなどのプロトコルも追加でご利用いただけます。一部製品ではGUIも使用でき、ネットワーク初心者の方も容易にご利用いただけます。

μNet3-WebSocket
Webアプリにおける
双方向通信を低コストで実現

 μNet3-WebSocketはμC3およびμNet3上に構築されたHTTPサーバーと組合せて使用する通信プロトコルです。任意のタイミングでクライアントからサーバー、逆にサーバーから接続中のクライアントへデータを送信することが可能です。これにより、インタラクティブなWebアプリケーションにおいて、クライアントとサーバー間の双方向通信を実現します。

μC3 WLAN SDK
ソフトウェア内蔵無線LANモジュール
アプリケーション開発キット

 μC3(RTOS)、μNet3(TCP/IPスタック)、統合開発環境、WiFiモジュールなど、組込みシステムで無線LANを使った開発に必要なソフトウェアとツールをご提供します。従来の無線通信機能に特化したソフトウェア内蔵型WiFiモジュールとは異なり、分散処理でメインCPUの負荷を軽減し、本来のアプリケーション処理に集中することが可能となります。