既存製品と差別化を図るためにマルチOSを採用-IoTゲートウェイ機「QRIoTⅩ」(株式会社九州テン様 採用事例)

株式会社 九州テン

事業内容無線・通信機器等の設計開発・製造、ソフトウェア開発、ICT機器全般の設置及び保守サポート、電気通信工事・電気工事、電子機器のリペア等
導入した製品IoTゲートウェイ機 QRIoTⅩ(キュリオット テン)
購入した製品μC3+Linux
CPUi.MX8M Mini
Cortex-A53:Linux、Cortex-M4:RTOS

 今回は株式会社九州テン様の事例をご紹介します。
 無線通信機器やICT機器全般にかかわる製品やサービスを広く提供しており、この度、IoTゲートウェイ「QRIoTX」にμC3+Linuxを採用していただきました。採用前の課題や効果はもちろんですが、マルチOSソリューションならではのお話しなども伺いました。

課題

市場に出ている既存製品との差別化のためにマルチOSを採用した製品を開発したい

採用の決め手

RTOSがもつリアルタイム処理とLinuxがもつ豊富なミドルウェアの活用の両方が実現できること

効果

通常時はLinuxをスリープにしRTOSを常時起動することで低消費電力を実現

―― 株式会社九州テン様の事業と製品について

 イー・フォース社の製品を導入した「QRIoTⅩ」はLinuxとRTOSのマルチOSを搭載したIoTゲートウェイです。
Linuxのエッジ処理によって、収集した情報を分析して必要なデータのみをクラウドへ送信することができるため、より効率的に情報の収集、蓄積が可能となります。また、ユーザ自身でカスタマイズすることで独自のシステムへの対応が可能です。
 RTOSを活用することで、Linuxだけでは難しかった高速サンプリング・正確なタイムスケジュールの実現や、低消費モード・強固な死活監視も可能です。
 また豊富な外部インターフェースを備えているため、デジタルI/O、アナログ入力やI2Cなど幅広い機器に対応することができます。

株式会社 九州テン
部署:アドバンストテクノロジー室
役職:シニアエンジニア
児玉 法行 様

導入前

当初から持っていたμC3への信頼感

―― 最初にμC3を導入した経緯を教えてください

 過去の開発案件で無線LANのEAP認証機能の実装が必要となり、無線LANモジュールのソフトウェアを内製化することとなりました。その際にμC3/CompactとμC3-WLAN SDKを採用しています。当時はEAP認証機能はサポートされていませんでしたが、ご相談したところカスタム対応をしていただけました。
 弊社開発品は残念ながら製品としてリリースはできませんでしたが、μC3は使いやすく、サポートも迅速だったため、μC3シリーズへの信頼感は当時から持っていました。

製品の可能性の広がりと競合との差別化を図れると考えた

―― なぜμC3+Linuxを導入することにしたのですか?

 「QRIoTⅩ」は世の中に出ているLinuxを搭載したゲートウェイとしては後発となりますが、Linuxの豊富なミドルウェアに加えてRTOSのリアルタイム性を活かすことで、製品の可能性が広がり競合との差別化を図れると考えました。また、マルチコアプロセッサで開発をすることで、高性能な製品を適正価格で提供できると考え、「QRIoTX」にμC3+Linuxを導入することにしました。

―― Linuxを採用するにいたった理由を教えてください

 従来のリアルタイム処理に加えて次のような理由があります。

  • 高速・大容量の画像データなどを扱いたい
  • ユーザ領域を設けたい
  • アプリ開発の敷居を下げたい(お客様のカスタム要求に応えたい)
  • 今後AI活用も視野に入れたい

導入後

当初、LinuxとRTOSの両方を使える技術者がいなかった

 組込みLinuxの開発ができる技術者が弊社には、一人もいませんでしたので製品の開発ができるかどうか正直不安がありました。RTOSの開発は社内で行い、Linuxのアプリ開発は協力会社に依頼して、OSのセットアップや動作確認は社内で行うという方針で開発をスタートして、Linuxに関しては開発を行う中で少しずつ力をつけていきました。
 ありがたいことに、RTOSとLinux間の通信部分はμC3+Linux付属のサンプルをほぼそのまま使用できたことと、RPMsgや共有メモリでOS毎に開発範囲を切り分けできたことで、開発はスムーズに進めることができました。

Linuxのディストリビューションについて

―― イー・フォースでサンプルを用意しているYoctoではなくDebianを導入されている理由を教えてください

 Yoctoは一般的なLinuxとは違い限られた機能仕様ですが、使い方もわかりやすくカスタム対応もできるため、問題なく利用できていました。しかし、製品化にあたって多様なユーザを想定した際に管理面で壁にぶつかりました。Yoctoの場合はユーザがLinuxのパッケージをダウンロードするためのサーバを弊社で用意する必要があり、管理面や運用面での課題が残りました。
 そのため、やむを得ず開発を始めてから9か月後にDebianに変更して、Debianの共通サーバからパッケージをダウンロードできるように変更しました。

開発スケジュールについて

―― 開発スケジュールは予定通りですか?

 予定通りには進みませんでした。
 コロナによる半導体不足の影響で開発時と製品化時の2回、CPUボードが入手できずにハードウェアの開発が延伸しました。ただ、ソフトウェア側でもYoctoからDebianへの変更作業があったため、結果的にはハードウェアとソフトウェアの開発時期を合わせることができました。

―― ミドルウェアはどのように検討しましたか?

 パラメータを設定するためのWebサーバを実装していますが、ミドルウェアは実装していません。お客様の方でミドルウェアを実装されることを想定しています。また弊社のSE部門で受託開発も可能です。

自由度の高い開発。低消費電力、起動時間の短縮も実現

―― μC3+Linuxをご利用いただいた感想を教えてください

 開発の自由度が上がったと感じています。

①低消費モードの実現
 低消費モードでは、LinuxはスリープモードでRTOSのみ稼働しています。必要な時のみRTOSからLinuxを起動することで低消費電力を実現できました。

②起動時間の短縮
 RTOSでデバイスの初期化を行うことによって、起動時間の短縮を実現しています。具体的な方法としては、以下のような処理を行っています。RTOS μC3のソフトをCortex-M側で2つ用意しています。

  • 最初にRTOS μC3①が起動して、その後にLinuxが起動します。
  • Linuxが起動した後にRTOS μC3①を終了して、次に連携用RTOS μC3②を起動します。

 Linuxよりも起動が早いRTOS μC3①でデバイスの初期化を行うことで、細かな制御ができて大変助かっています。

 またLTEは起動してから通信できる状態になるまで1分ほどかかりますが、RTOS μC3①がLTEを起動することで、Linuxが起動して直ぐに通信できる状態となっています。
 Linux単独では難しい起動時や終了時の処理が、μC3+Linuxでは実現できるため、そういった部分を上手く活用していきたいです。

―― こちらの方法はマニュアルに掲載されている方法ですか?

 マニュアルには「RTOSを起動してからLinuxを起動するパターン」と「Linuxが起動してからRTOSを起動するパターン」が記載されています。
 お話したのは両方のパターンを併用した方法で、RTOSのイメージファイルを2種類用意したうえでRTOS①→Linux→RTOS②とシリアルに起動しています。

低消費モードは1W以下でセンシングが行える

―― どのようなユースケースを想定していますか?

 まだ企画段階ですが、雨量の常時監視を想定しています。
 マルチOSのメリットを生かし、通常時はLinuxをスリープしてRTOSだけが常に動いて雨量測定を行い、有事の際はRTOSからLinuxを起動して、サーバ側と通信や画像を送ったりするものを考えています。
 基本的なセンシングはRTOSで実施し、Linuxはそのデータをサーバに上げる役割を担います。カメラを使う場合も撮影時のみLinuxを起動してサーバにデータを上げます。通常時はRTOSのみで稼働できるため消費電力を抑えながらデータを計測するということが可能です。

―― 消費電力について教えてください

 低消費モードを使用した場合基本的には0.9W以下で動作ができ10分間のうち約30秒だけ、3.9Wになり一般的なゲートウェイと比較して3分の1程度の消費電力となっています。「Linuxや色々な部品が載っていても1W以下でセンサのセンシング等が行える」というのが特長です。

―― 弊社製品に関する課題はありますか?

 導入時にYoctoかDebianか選択出来たらよかったと思いました。当時はカスタムしやすい点でYoctoを採用したのですが、パッケージ配布の面から開発途中にDebianへ変更することになりました。そのため最初からDebianに対応した商品の選択肢があればよかったと思います。

オフィス、工場、農場など、屋内外を問わず幅広い業種のお客様に

―― 今後の展望についてお聞かせください

 μC3+Linuxを使った工場の自動化を考えています。
 製品に貼るラベルの印刷不良を自動判別するシステムを考えています。RTOS側でモータを制御してラベルをスクロールし、Linux側でカメラ撮影をしてエラーチェックを行います。モータ制御とカメラ撮影が必要なため、通常はモータを制御する外部ユニットなどが必要となりますが、マルチOSであればRTOSでモータ制御、Linuxでカメラ撮影ができるためBOMコスト削減になります。

 現在もお客様にはハードウェアだけではなくサーバも含めて採用していただき、満足いただいておりますがマルチOSである理由をさらに伝えていく必要があります。ゲートウェイ機器はセンサを繋ぎ、データの蓄積・解析を行ってクラウドへデータを上げ、クラウドに収集されたデータから大きなメリットを得ることが出来ます。
 また、本製品の魅力の一つでもあるアプリケーション搭載での拡張性も伝え、他社の選択肢がある中でも弊社製品を選んでいただけるよう差別化を図っていき、オフィス、工場、農場など、屋内外を問わず幅広い業種のお客様にご利用いただきたいです。

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